アドラバル・セイラ
―愛おしき首なき姫の物語―
むかしむかし、黒い森の奥に、ひとつの村がありました。その村には、いつからか「首のない少女」が現れては、静かに泣いているという噂がありました。
長い黒髪を垂らし、胸には黒いハートの傷を抱え、赤い血を滴らせて……。
けれど誰も、その少女に近づこうとはしませんでした。
「呪われている」
「見たら不幸になる」
人々はそう囁き合い、ただ恐れるばかりでした。


ある夜、月の光に導かれるように、ひとりの子どもが森に迷い込みました。
子どもは泣きながら歩き、やがて血の滴る音を聞きました。
音の先に立っていたのは――首のない少女。
けれど子どもは恐れませんでした。
「痛いの?」
そう声をかけると、少女の胸の黒いハートが少しだけ赤く光りました。
その日から、子どもは毎晩少女に会いに行きました。
歌を歌い、花を摘み、物語を語って聞かせました。
少女は首がないので声を出せません。
けれど手を震わせ、うつむき、確かに心を持っているようでした。


やがて子どもは村の古い書物で知ります。
その少女は昔、この土地を治めていた領地の娘で、その慈しみの深さから「セイラ」という名で愛されていた姫だったことを。
村を守るために魔女に立ち向かい、首を斬られて命を落としたのだと。
胸の黒いハートは、愛する人たちを守ろうとして受けた呪いの印。
けれど、その勇気と慈しみの心は、決して消えることはなく――
「愛おしい者」としてこの世に留まったのです。
それが「アドラバル・セイラ」でした。
ある嵐の夜、村に再び魔女が現れました。
稲妻が走り、人々は怯えました。
そのとき、首のない少女は血に濡れた姿のまま村の広場に現れました。
「もう一度、守らせて」
声はないのに、確かにそう語りかける気配がありました。
胸の黒いハートが赤黒く燃え上がり、魔女を飲み込みます。
翌朝、嵐は去り、魔女の影も消えていました。
しかし、アドラバル・セイラの姿もまた、どこにもありませんでした。


村人たちは二度と彼女を見ることはありませんでした。
けれど森の奥を歩けば、時折、血の跡のように赤い花が咲いていました。
その花は人々に「勇気」と「優しさ」を与え、悲しみを和らげました。
村の子どもたちはその花を 「セイラの涙」 と呼びました。
そして今でも誰かが真に「愛おしい者」を守ろうとするとき――
首のない姫、アドラバル・セイラはそっと寄り添っているのです。
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